静寂の中 聴こえるのは 雨音だけ その雨に 傘はいらない 長方形の窓を開けて ぎりぎりまで手を伸ばした 閉じた記憶の片隅で 掌を上にして 雨粒を 受け止めている 世界は 白く染まり 霧に包まれて 君を探せない 昼間なのか夜なのか もう分からないね カーテンの向こうから見える 空は無色 誰もいない部屋で 忘れ物のオルゴールの音が 祈りを奏でて 寂しくはないから 安心して いっていいよ 緩やかな痛みが 静寂の中 地に落ちたチャイムとともに 響くだけだから おぼろげな記憶が 空に映る 忘れようとしても 忘れることはできない 忘れたくないから 忘れないのではなくて あの日の風景が 苦しいほどにきれいすぎて 心に焼きついてしまったんだ だから いつまでも 忘れない 明日も明後日も もう光が見えないね 建物の隙間から見える 空は無色 見上げた目から落ちた 1人分の涙は 雨に混じって 地に溶けた 寂しくはないから 安心して いっていいよ 静寂の中 聴こえた 最後の君の声 その雨に 傘はいらない